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土佐有明「恋愛は二次元で事足りる、という時代は到来するか!?」
是枝裕和監督の最新作『空気人形』は、ダッチワイフが人間の心を持ってしまったら……という設定のファンタジー映画だが、そこに精神を病んだ男女のエピソードが挿まれることで、フィルム全体に索漠とした虚無感が漂っているのが印象的だった。
例えば、柄本佑演じるアニメオタクの浪人生が、美少女フィギュアのスカートの中を必死に撮影し、パソコンのモニターに大写しにするシーン。「それキモい!」と反応する女性も多いだろうが、結構、似たようなことをやっている男性はいると思う。かくいう筆者は実践したことこそないが、そんな彼の気持ちは、決して分からないではない。
クライマックスに近い場面では、ペ・ドゥナ演じる、心を持ってしまったダッチワイフに対して、かつて彼女の所有者だった男性がこんなことを言う。「人形に戻ってくれ、現実の女性は面倒くさいから好きじゃないんだ」、と。で、これまた困ったことに、その所有者の心情がまったく分からないとは言えない筆者である。
面倒で厄介な現実の女性と無理して付き合うよりも、自分の理想を過不足なく体現してくれるキャラクターや人形を愛玩するほうがずっとマシ。「萌える」という感覚が分からない方はピンと来ないかもしれないが、この感覚、非オタク層の間でも徐々に共有されつつあるように思う。
2005年には既に、現実の恋愛に固執する不毛さを説き、二次元のキャラクターを愛でる「デジタル恋愛」を推奨した『電波男』(本田透著)なる本が話題となっているが、ここで展開された主張は、着実にスタンダードに近づいている。そう思わせる現象を、最近あちこちで見かけるようになったのだ。
最近の例で言えば、美少女との擬似恋愛をゲームを通じて体験する、『ラブプラス』というギャルゲーの爆発的人気。発売5日後に5万本を超える売り上げを記録し、ゲームにハマりすぎて現実の女性との付き合いがどうでもよくなってしまった、という男性が急増しているとか。
ちなみにその『ラブプラス』のキャラクターが表紙に登場した雑誌『TV Bros』(2009年10月3日号)では、「二次元で自慰できるか?」という趣旨のアンケート結果が示されており、「できる」と答えたのは、30代が45%、20代が75%、10代が85%と、若い層ほど高くなっている。アンケート結果がすべて現実の反映とは言えないが、先述の
「デジタル恋愛」を違和感なく享受できる世代が育ちつつあることは確かだろう。
二次元のほうが三次元よりも充足感を与えてくれ、時にはリアルに感じられる。そんな反転現象は例えば、ここ数年、カルチャー誌や映画誌で、生身の女優やグラビアアイドルに代わって、アニメやゲームのキャラクターが表紙を飾るようになったことにも象徴される。
タイムリーなところで言えば、先述の『TV Bros』の他、アニメ映画『サマーウォーズ』のヒロインが『映画芸術』の表紙になり、映画監督・青山真治らの非難を浴びたことも記憶に新しい。また、アニメやゲームをパロディのネタにしたAV(アダルトビデオ)も次々に作られ、TMA(トータル・メディア・エージェンシー)のように、その種のAVを専売特許にする会社も出てきた。
『涼宮ハヒルの憂鬱』(涼宮ハルヒの憂鬱)、『ロゼーン・メイデン』(ローゼンメイデン)、『きら☆すた』(らき☆すた)等々、タイトルからしてあからさまにネタを意識させる(カッコ内が元ネタの作品名)この類の作品はかなりコンスタントに量産されており、 需要と供給が一致していることを実感させる。ここで、先ほどの、「二次元で自慰できるか?」のデータを思い出して頂けると、納得がいくのではないか。
特に、大ヒットしたアニメ『けいおん!』のオマージュAV『軽音部!』は、キャラクターの容姿から台詞までを、笑ってしまうほど忠実に再現。冒頭部分はニコニコ動画にアップされ、膨大なアクセス数を記録した。更に言うなら、AVに限らず、『キューティーハニー』から『ドラゴンボール』に至るまで、アニメを半ば無理矢理実写化するという試みも、映画界において顕著だ。
2010年公開予定の実写版『時をかける少女』は、大林宣彦監督・原田知世主演のそれではなく、アニメ版『時かけ』のヒットを受けて制作されたものであり、内容も、アニメ版を踏まえたものになると予測される。
ところで、『週刊少年サンデー』で連載中の人気漫画『神のみぞ知るセカイ』は、ゲームにしか興味がない二次元オタクが、地獄から飛来した少女の依頼を受け、「落とし神」として現実の女性を次々に口説き落とすという話だ。ここで主人公の高校生・桂馬は、難易度の高い数々のギャルゲーを攻略する中で会得した人心掌握術を応用し、アイドルから女教師まで、「無理め」な女性の心を確実に射止めてゆく。
この漫画が面白いのは、どれだけ現実の女性が自分に振り向いてくれても、主人公の桂馬が彼女たちに一切恋愛感情を抱かないところである。せっかく生身の女性にモテまくっても、彼の関心はいつまでもゲームの中。そんな桂馬の姿は、「デジタル恋愛」の優位性を説く『電波男』の著者、ひいては『ラブプラス』やアニメのパロディAVにハマる男性諸氏ともダブって見える。桂馬はもちろん架空のキャラクターだが、そのメンタリティは現実を透写した結果とも言えるのではないだろうか?
ここまで読まれた方はもうお分かりかと思うが、「デジタル恋愛」に没頭する男性に対して、「現実の女性に相手にされないから仮想現実に逃避してるんでしょ?」という、ありがちな意見はまったく意味を成さなくなっている。彼らは、三次元に相手にされないから二次元に逃避しているのではなく、二次元の女性のほうが魅力的だと思っているのだろう。言うなれば、三次元の女性が自分の理想通りに振舞ってくれたら乗り出してあげてもいいよ、くらいの感覚の人が増えているはず。
しかしこの状況、少子化を懸念する日本政府にとっては、かなり深刻な不安材料じゃないかと思うのだが。「子供手当て」の支給もいいけれど、まずは「デジタル恋愛」で充足してしまっている男性たちに、現実の女性に興味を持ってもらうことから始めて貰わないと……と、現政府には進言したいところだ。
引用元: 土佐有明「恋愛は二次元で事足りる、という時代は到来するか!?」 – ビジスタニュース – BLOGOS(ブロゴス) – livedoor ニュース
というか、余計なお世話です。
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